気を放つ風景 photography

エッセイ_奄美

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奄美

 九州と沖縄の中間に位置して、豊かな自然と、島唄など伝統文化が息づく奄美大島を旅してきた。
丘陵地帯の北部より南部へと向う。シイの木、琉球松など自然林そのままである。峠を超えると、谷間に巨大なシダ(ヒカゲヘゴ)の群生が現れてきた。長いトンネルを抜け住用村に入ると、二つの川が合流し海に注ぐあたりにマングローブ(海水と淡水が交わる干潟に茂るメヘルギ、オヒルギの群生)の原生林が美しく広がっている。マングローブの入江にカヌーを浮かべ、鏡のように凪いだ水面をすべる。
 本島南端、ホノホシ海岸の浜は直径10センチほどの丸石ばかりで、そそり立つ岩場に太平洋の荒波が打ち寄せ、引いていくときにガラガラガラと心地よい音を響かせる。
 加形呂麻島の中西部に位置する於斉の海岸の森はガジュマル、アコウ、デイゴなどの大木に囲われて昼なお暗く、神秘な気配が漂う。村の方が、向こうのアコウの木にはケンムンが住んでいたのですよという。ケンムンは森に住む精霊で、時々里に下りては村人にいたずらをし、人をかどわかすという。頭に皿があり、そこが濡れていなければ力がなくなるのは、カッパにも似ている。
 奄美は「平瀬マンカイ」「浜降れ」「アラホバナ」などの伝統神事がいまだに続いている。祭祀を仕切るのがノロと呼ばれる神女である。人間と自然宇宙、神霊をつないでくれるのがノロやユタの役割なのだろう。
 本島北部の奄美空港にも近い丘の上の聖地アマンデは奄美の名の由来である、創世神アマミコが降りたった山の一つである。清々しい海風が吹きつけ、眼下にコーラルグリーンの珊瑚礁とマリーンブルーの海が広がる。海のかなた、ネリアカナヤは私たちの帰るべき魂の故郷のような気がするのだった。
 奄美は日本で三番目に大きい島ながら大企模な開発にさらされなかったのは奇跡といえる。毒蛇ハブが森を守ったともいわれている。出会った方々が皆穏やかで、質問にいやな顔一つせずによく答えてくれたのは感激だった。海岸線も山々も複雑にウェーブする波の島、奄美の波動がいまだ心に響いている。

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